時代は遠くになりにけり!万葉集草木シリーズ44.コケ

「万葉集で詠われた草木」シリーズの前は、「世界の国花」シリーズでした。国花シリーズでは各国が誇る1花ということで、華々しい花が多かったのですが、この万葉集シリーズになってからは一転して出てくる草木が地味になりました。

これは、万葉集に収集されている歌が詠まれたのは(630年頃? – 759年)で、それは 飛鳥時代(592年 – 710年)~奈良時代(710年 – 794年)という時代であり、この時期には政争が多く行われました。また、人々の職業は大半が農民で税の取り立てが厳しく疲弊していたでしょうから穀物以外に栽培するのは、生活用や、薬用、儀式用に使う草木であって、趣味の観賞用の草木は育てられなかったかもしれません。中国から梅が渡来し当時大流行となり梅の歌が多く詠われました。まだ、水仙や山茶花などの華やかな花はまだ日本には入って来てなかったので冬の花は少ないです。冬の歌に出てくるのは花が目立たない常緑樹が多いです。

ここでは、コケ(苔、学名:Polytrichum)を詠った歌を1首ご紹介します。


万葉集第3巻 259番歌


作者:鴨足人(かものきみたるひと) 題詞:鴨君足人香具山歌一首


原文


何時間毛 神左備祁留鹿 香山之 鉾椙之本尓 薜生左右二


訓読


何時(いつ)の間毛(も) 神左備(さび)祁留(ける)鹿(か) 香具山之(の) 桙椙(杉)之(の)本尓(に) 薜(苔)生(むす)左右(まで)二(に


かな


いつの間も 神さびけるか 香具山の 桙(ほこ)杉の本(もと)に 苔むすまでに


意味


いつの間にか 神々しく寂れてしまった 香具山の 矛先の様に立つ杉の根元に 苔生(こけむす)までに。

藤原京から平城京に遷都したので訪れる人が激減した香久山を嘆き昔を偲んで詠った歌です。

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