ミル
Codium fragile
万葉集でよまれた草木, らんまん植物
- 花名ミル
- 学名Codium fragile
- 別名海松, green sea fingers, dead man's fingers
- 原産地世界中の暖かい海
- 開花場所特定の地域
- 開花期
ミルとは
ミル(海松、学名:Codium fragile)は世界中の温かい海に生息する緑藻という海藻の一種です。日本各地の海の潮間帯下部〜潮下帯の岩礁に生息します。
色は深緑で二分枝しながら長さ40cm程に成長します。枝の断面は太さ1cm程で丸く長いのが、人間の指の様に見えます。以前は食用として食べられていましたが現在では日本では食用としていません。
緑藻類の一種であるミル藻は、赤色~黄色を帯びた海のカロテノイドの一種であるシフォナキサンチン(siphonaxanthin)を体内に大量に持っています。海中では緑色の光が最深部まで到達することから、緑色の補色である赤い色素を持つミルは緑色光を効率的に利用でき海底の深部にまで生息分布が広がります。
和名の由来は、海に居て形が松に似ていることに拠ります。英名では、green sea fingersや、dead man's fingersと呼ばれます。緑色で枝葉が指形をしていることや、干潮時に岩から枝を垂れ下げた様子が死人の指のように見えることに拠ります。
属名の「Codium」はラテン語の「codion(絨毛の如き皮)」から、種小名の「fragile」は「壊れ物」という意味です。イラストは有紀@かぎけん。
由緒ある植物ミル
①大宝律令で朝廷へ納める税には、米や労働、布、絹、工芸品などがありましたが、海松も納税品の一つとして記載されています。
②Olive Greenに近い、海松色(ミル色)と呼ばれる黒っぽい緑色「系統色名:dg-YG、暗い灰みの黄緑」は陸上植物には見られない色です。
ミルの体内に含まれる緑色吸収体のシフォナキサンチン(siphonaxanthin)によるものです。
③神饌(しんせん、みけ)と呼ばれる神様に献上する食事に、海藻の一つとしてミルが用いられています。
④らんまん植物にも取り上げられています。
⑤ミルに含まれるシフォナキサンチンは人間の肥満に効果があるとされます。
⑥萬葉集で詠われています。
昔からあった海藻で、万葉集では山部赤人が雑歌で以下の様にミルを詠っています。
万葉集のミル
万葉集 第6巻946番歌、雑歌
作者:山部赤人
原文
御食向 淡路乃嶋二 直向 三犬女乃浦能 奥部庭 深海松採 浦廻庭 名告藻苅 深見流乃 見巻欲跡 莫告藻之 己名惜三 間使裳 不遣而吾者 生友奈重二
読み
御食(みけ)向(むか)ふ 淡路の島に 直(ただ)向ふ 敏馬(みぬめ)の浦の 沖辺(おきへ)には 深海松(ふかみる)摘み 浦廻(うらみ)には 名告藻(なのりそ)刈る
深海松(ふかみる)の 見まく欲しけど 名告藻の おのが名(な)惜(を)しみ 間使(まつか)ひも 遣(や)らずて我(われ)は 生けりともなし
意味
淡路島の真向かいの 敏馬(みぬめ)の浦の 沖合いでは、海中深く生えている海松(みる)を摘み取り 浦の海岸周辺では 名告藻(なのりそ、ホンダワラ”のこと)を刈っている。
深海松(ふかみる)の名のように、あの人を見たいけれど、名告藻(なのりそ)の名のように、浮名が立つのが惜しいので、使いの者をやることもできず、私は生きた心地がしない。
一般名:ミル(海松)、学名:Codium fragile、又名:green sea fingers、dead man's fingers、生息分布:世界の暖かい海、環境:海の潮間帯下部〜潮下帯の岩礁、分類名:植物界緑藻植物門緑藻綱ミル目ミル科ミル属ミル種、長さ:20~40cm、色:深緑色、用途:昔は食用とされた、特記:万葉集で山部赤人がミルを詠っている。